uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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【前立腺】BPHってなんのことかわかりますか?

今回は組織像はでてきませんが、以前より気になっていたテーマです。Benign prostatic hyperplasia (BPH) についてです。
いわゆる前立腺肥大症のことですが、、、、

教科書的には

本稿を書くに際してもう一度病理の教科書を確認しました。
(Robbins & Cotran Pathologic Basis of Disease 7th p1048参照)
教科書では, Prostateの項目はInflammations, Benign enlargement, Tumors の3つに分類されています。このBenign enlargement のなかに Nodular hyperplasia (Benign Prostatic hyperplasia)の記述があります。これがBPHのことで、日本語訳としては「良性の増大」に分類される病態として「結節性過形成」, 「良性前立腺過形成」となるのかなと思います。

肥大と過形成は異なる概念

病理総論的には肥大(hypertrophy)というものと過形成(hyperplasia)といわれている病態は異なるものです。病理医にとっては基本的なことかもしれませんが、一般的にはあまり理解されていないかもしれません。

臨床医にとって

臨床医にとってはBPH=前立腺肥大症だし保険病名としても前立腺肥大症という
病名は用いられています。だから社会的にはちゃんと通用する言葉です。ただし、言葉というものは必ずしも適切な表現だから、ではなくてずっと使われてきたから、皆が使っているから、使われているという側面があると思います。

そもそもどういう病態をさすのか

泌尿器科医からすると、臨床的なBPHというものは前立腺の増大(benign prostatic enlargement: BPE)から生じる尿の排出障害(Bladder outlet obstruction: BOO)や下部尿路症状(Lower urinary tract symptoms: LUTS)を総括した排尿障害を表す概念です。

ただ通常はエコーをやって20ml以上とか50ml以上だとか前立腺容積が大きい場合に、すなわち病態からするとEnlarged prostate もしくは Prostatic enlargement とよばれる状態を「前立腺肥大である」と表現されることが多いです。ですので厳密には「前立腺の増大もしくは腫大」との表現が適切ではないかと思います。

そして病理学的なBPHは、上皮細胞および間質細胞の過形成による前立腺の(結節状の)腫大と定義されます。先ほどの分類では、炎症でも腫瘍でもなく、良性過形成性腫大であると理解されます。

実際に使用されているターム

以上から、BPHは良性の腫瘍だと思っている人がおられたら認識を改める必要があるとわかります。腫瘍には分類されないものでした。非腫瘍性の病変です。

そして、腺腫とかアデノーマ(adenoma)という表現が用いられることがあります。これらはやはり良性の腫瘍性病変に対して用いられる病名ですので、前立腺には発生しない病態です。

例えば「腺腫の核出」といった言葉が使われることがあるかもしれませんが、表現としては「結節の核出」とするほうが適切かと思います。

そしてあまり使われないかもしれませんが、「再発」という言葉はやはり腫瘍性病変とくに癌に対して使う言葉なので、腫瘍性病変でないBPHには「再発」ではなく、「残存していた過形成結節の増大」などと表現するべきと考えます。

肥大と過形成を掘り下げると

先ほどの「Pathologic Basis of Disease」は1500ページ以上ある病理のスタンダードな教科書です。その6-9ページ目に過形成(hyperplasia)と肥大(hypertrophy)について説明が載っています。とても重要な概念だということがわかります。興味ある方は成書を参照してもらえるといいかと思いますが、簡単に要約すると

Hyperplasia = 細胞が数的に増えること。結果として臓器や組織の容積が増大する。

Hypertrophy = 細胞のサイズが増大すること。結果として臓器の増大が起こる。

このように本質的な違いがあります。過形成は前立腺のほかにも子宮内膜や消化管などの粘膜などで見られます。肥大は心筋や骨格筋といった横紋筋に起こります。肥大型心筋症が代表的な病気でしょうか。

Take home messageとして

患者さんにとっては「悪いもの」か「良いものか」がわかれば「正しい言葉」なんてなんでもいいと思うのです。でも医学教育を受けた医師である以上は正しい用語を使ったほうがいいとも思います。いつか前立腺に対して肥大という言葉が使われなくなるかもしれませんし、ずっと変わらないかもしれません。

でも、「BPH=過形成だ」と、それだけは言いたくて書かせてもらいました。

 

 参考までに(病理の代表的な教科書2つです)

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