uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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【論文チェック】前立腺癌患者のCAM使用傾向(USAの研究)

こんにちは。

 

医学論文を適当にピックアップして読んでみました。

 

今回は前立腺癌とサプリメントについての論文です。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

・2019年

・Journal of Urology

・PMID: 31091175 DOI: 10.1097/JU.0000000000000336
・1st author Zuniga KB
・last author Chan JM
・カリフォルニア大学
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31091175

 

CaPSURE (15000人のデータベースのようなもの)を使ってアンケート調査をした。
内容は補完医療・代替医療(complementary and alternative medicine: CAM)について.

前立腺癌患者での傾向を調べた。

 

方法

・7989人が対象

・1996年から2016年の期間、70の薬剤に関して質問

 

結果

・56%が少なくとも1種類のCAMを使用

・マルチビタミンとオメガ3脂肪酸の使用が最も多い(40% and 24%)

・CAM使用者は大学卒業者・高い世帯収入・西海岸 (West and Midwest) 居住という傾向があった

・診断時PSAは 5.8 (IQR 4.4-8.4) and 6.2 ng/ml (IQR 4.7-10.1) among users and nonusers, respectively (p <0.01) ・・・CAM使用者のほうがやや低い

・1996-2000に診断された患者と2011-2016に診断された患者を比較すると、CAM使用者は24%→54%と増加した(128% up)

・同様に2006-2010よりも、2011-2016の方がビタミンDの使用が108%増加し、ビタミンEは48%減少した。

 

※ CaPSURE™ is a longitudinal, observational study of approximately 15,000 men with all stages of biopsy-proven prostate cancer.

 

※自分なりの解釈・英文読解力の不足から内容は必ずしも正確とはいえない場合もあります。

 

感想

癌患者でなくてもマルビタミンやオメガ3脂肪酸を摂取しているのかもしれませんが、特に20年前に比べてサプリの使用が増えているのは大きな変化といえます。

私自身は今のところサプリは使っていませんが、日本でもビタミンとか脂肪酸の使用者が増えているのでしょうか。

日本でも、収入が高い、大卒、都市部に住んでいるような人の方が多くサプリを摂取してそうだなと思った次第です。

 

それでは。 

精巣腫瘍の診断。鞘膜への露出や精巣網への浸潤について。

こんにちは。

 

精巣腫瘍の診断においては、まず組織型ありきなのですが、ステージングのためには脈管侵襲像や精巣鞘膜への露出がないかどうかということも見ておく必要があります。

 

そのあたりは精巣腫瘍取扱い規約についての記事がありますのでそちらを参照してください (R)。

 

今回は鞘膜への露出像や精巣網 (rete testis)への浸潤像です。

 

まずは鞘膜露出。

 

こちらはセミノーマ症例です。腫瘍細胞の白膜への浸潤がみられるとともに写真の右側では一層の中皮細胞に覆われた精巣鞘膜を認めます。

 

比較的広い範囲で鞘膜直下への腫瘍細胞の進展が見られるため、鞘膜への露出と判断できます。

実際に漿膜の中皮細胞に浸潤するとびらん状になって中皮が確認できなくなることが多いと思いますので、組織像と肉眼所見を把握して判断しなくてはなりませんが、このような場合は鞘膜への露出とし, T2と判断しています。

 

 

続いて精巣網 (rete testis) への浸潤です。

 

画面の上半分には浸潤のない rete testis が認められます。下方から セミノーマ細胞が進展してきています。

 

浸潤部のあたりの拡大像になります。これを腫瘍による圧排ととらえるか、rete への浸潤ととらえるかは意見が分かれるかもしれませんが、このくらい rete を破壊して進展していれば浸潤と考えても良いかと。

 

実際に報告書にこれを書く必要があるかというと微妙なところではあります。

 

2017年にISUPから出されたRecommendationでは 

・Pagetoid involvement of the rete testis epithelium must be distinguished from rete testis stromal invasion, with only the latter being prognostically useful.

と記載されており、rete testis への間質浸潤の有無が予後に影響があるというコンセンサスにはなっています。ですので浸潤があれば報告書に盛り込むというスタンスでいいと思われます。

(上記論文は全文公開されていません。ISUPのコンセンサスくらいフリーアクセスにして欲しいところです)

 

Rete testis への浸潤がステージングや予後に与える影響について最近の論文を調べてみました。 

 

↓こちらはあまり影響がないとする結果

2019年のAJCPにウィスコンシン大学からの報告です。

・171例のセミノーマと、178例の非セミノーマ (NSGCT) を5施設から集めた 

・Rete direct invasion (ReteD) と rete pagetoid spread (ReteP)について検討

・ReteP and ReteD はセミノーマでの頻度が高かった(NSGCTでは少ない)。

・セミノーマでは3cm以上か未満かによって転移率に差あり

・ReteP or ReteD の有無と腫瘍サイズに相関はなし。しかしLVI/SCI(脈管侵襲や精索浸潤)症例に比べるとサイズは小さかった。

・ReteP or ReteD の有無と(セミノーマの)転移・再発には差がない。

・NSGCTにおいても、ReteP or ReteD の有無はサイズ・転移・再発いずれも相関なし。

結論として、AJCCのステージ1の亜分類を変える必要はないと言っています(AJCCではセミノーマのみ3cmを基準にpT1a/ pT1b を分けています)。

 

↓次は予後に影響するという立場。 

2019年のトルコからの報告では、59例のGCTを集めて検討していますが、

・Hilar soft tissue invasion と vascular invasion に相関あり (p = 0.001)

・vascular invasion は転移と関連していた (p = 0.024)

・腫瘍マーカーのレベルは、rete testis invasion と関連していた (p = 0.035)

と結論しています。全文は参照できないのでアブストラクトだけなのですが、用語(rete testis invasion と hilar soft tissue invasion)が統一されていない上にそれが同じ状態を指しているのかわかりにくい(一般的に rete testis と hilar soft tissue は別物)点や、「rete浸潤と脈管侵襲に相関があって、脈管侵襲と転移に相関がある、だからrete浸潤は予後因子だ」みたいな三段論法になっているので、rete浸潤と予後には強い相関がないのでは?という印象を受けてしまいます。

 

少し遡ると2013年のModern Pathology でNSGCTに関して、

・多変量解析で脈管侵襲・rete tesitis invasion ・ hilar soft tissue invasion が進行度と有意に相関していた

という報告がありました。

 

最近の論文では否定的な報告もありますが、おそらく rete testis や hilar soft tissue まで浸潤がおよぶと予後が悪化するというのは本当のところなのかなと思われます。

 

さすがに、ないよりはあったほうが悪いというのは当然として、それがどの程度予後へ影響するのかというところでは議論の余地があり、現時点ではステージングに及ぼすほどではないようです。

 

それと、正常の精巣のサイズはだいたい4×3×2cm ほどですので、5cm以上の大きさの腫瘍ではほとんど精巣実質が消失していると思います。そのような症例では、rete testis も置換されるか消失していて、評価が難しいんではないか?評価する意味があるのか?などと思ったりもします。

 

このへんは引き続き気をつけて見ていきたいところです。それでは。

尿路上皮癌の再発に関する2つの説「intraluminal seeding」,「field cancerization」について。

こんにちは。

 

尿路上皮癌は大きく上部尿路(腎盂・尿管)癌と膀胱癌に分類されます。

 

腎盂尿管癌の場合は治療として腎尿管全摘が選択されるわけですが、術後には高い確率(22-47%)で膀胱内再発が生じます。

 

このメカニズムとして多中心性発生 (field cancerization / field effect) によるとする説と,上部尿路から膀胱への腫瘍細胞の播種 (implantation / intraluminal seeding) によるとする説があり、それぞれを支持する研究があるため、どっちが正しいとの結論には至っていないと思われます。

 

以前調べた時は、播種説のほうが有力だという理解をしていたのですが、知識をアップデートすべく最近でた論文をチェックしてみました。

 

まずは古い論文から。 

www.ncbi.nlm.nih.gov

↑ こちらは1993年の羽淵先生の論文(Lancet)ですが、この記事では播種を支持しています。(アブストラクトしか参照できません)

p53遺伝子に着目した研究で、上部尿路癌と膀胱癌で同じ変異が見られたという趣旨です。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

↑ 同じく羽淵先生が2005年にかかれた総説で、フリーで全文読むことができます。ここでは ‘field defect’ hypothesis  と  'single progenitor cell' hypothesis というタームで解説されており、やはり後者の説を支持する内容。

これを読むと、やっぱりdisseminationによる再発なのだと納得させられます。

 

逆に field cancerization を支持する論文もあります。こちらも2005年でインディアナ大学の研究です。(フリーで参照可)

LOH assay で microsatellite alterations を調べたり X-chromosome inactivation のパターンを調べるという手法です。microsatellite alterations ⇒ 9p21-22 (D9S171 and IFNA) and 17p13 (TP53)。

11名の女性と10名の男性の合計21名での研究ですが、x-chromosome inactivation は女性のみになるのでやや少ない印象を受けます。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

さて、こちらは2019年の clinical cancer research です。Memorial Sloan Kettering Cancer Center からの報告。(オープンアクセスではありませんが)

内容をざっと見ていきます。

・UTUC(上部尿路癌)とUCB(膀胱癌)について次世代シーケンサーを使ってゲノムの違いを調べた。・・・この辺はさすがに最新研究

・UTUCが195例、UCBが454例

・29例は、UTUC後にUCBを生じた症例 ・・・腎盂尿管癌術後の膀胱再発(ココを知りたい)

・この29例のサブグループにおいては腫瘍のクローンの関係性 (clonal relatedness) を調べるためにUTUCとUCBのペアを解析した。

・UTUCは43%が非筋層浸潤癌、39%が筋層浸潤癌、18%は有転移症例(UCBはそれぞれ、33%, 47%, 20%)

targeted NGS analysis を用いて275-468の癌関連遺伝子について腫瘍・germ line DNAの両者について調べた。・・・Lynch症候群についても調べるため

・UTUCで最も良く変異がみられたのは、FGFR3 (40%), KMT2D (37%), KDM6A (32%), TP53 (26%), ARID1A (23%)

 ・ステージが高いと、RTK/RAS pathway の変異が少なく、TP53/MDM2の変異が多く見られた。

・UCBとUTUCを比較すると、UCBではTP53. RB1, ERBB2に変異が多く、UTUCではFGFR3とHRASの変異が多かった。

・195例のUTUCのうち、137例は腎尿管摘除をうけ、57例 (42%) がのちに膀胱内再発を来した(再発までの中央値は7.3か月) 

・FGFR3, KDM6A, CCND1 の変異を持つ腫瘍は膀胱内再発のリスクが高く、TP53変異を持つ腫瘍は膀胱内再発のリスクが低い。

 ・クローンの関連性を調べたところ、すべてのUTUCと再発性UCBのペアにおいて、共通のクローン起源を有していた (P<0.005)。ただし、病変によりいくらかのheterogeneity (86% しかsomatic mutation が共通していないものがあった?) が観察された。

 

Figure5 に oncoprints と venn diagram が載っているのですが、視覚的にほぼ上部尿路癌と続発膀胱癌のsomatic mutation が一致しているのがわかります。

癌においては腫瘍内の部位によって性質が異なる=heterogeneity を有するというのは当然ですが、これだけ網羅的に変異を解析した上でクローンの起源が共通しているという結論が得られているので、この研究は今まで以上に説得力があります。

以前の研究では、LOHやX染色体賦活化で数個の遺伝子を調べるだけだったのが、今では数百個の遺伝子をターゲットにしているんですから隔世の感があります。

 

他にここ最近の反対意見がでていないか調べましたが、2015年にMSKCCから似たような論文が出ている他には、このテーマに関しての報告は見つけられず。

 

ということで、最新の研究においても多中心性発生より播種説(単一クローン説)が強力であるという理解で良さそうです。

 

それでは。

TURBTの際に生検 (cold cup biopsy) をしておく必要はあるか。

こんにちは。

 

膀胱腫瘍に対するTURBT (transurethral resection of bladder tumor) は泌尿器病理においてはかなりポピュラーな検体です。

 

泌尿器科医にとっても前立腺生検に次いで身近な病理検体ではないかと。

 

「TURBTの際に生検 (cold cup biopsy) をしておく必要性。」というテーマですが、結論としては「主病変のコールド生検はTURする前にやっておきましょう」ということです。当たり前だと思われた人はこの記事を読まなくて大丈夫です。

 

ランダム生検が必要かどうかというのは症例によって術者が判断すればよいことだと思いますが、今回の要点は、ターゲットとなる病変がある場合(なくても second-TURのような場合も)では、コールド生検をしましょうということです。

 

まず確認として経尿道的な手術の場合は、組織採取に大きく2つの方法があります。

 

・ループ電極をもちいた切除 (hot resection)

・鉗子をもちいた生検 (cold cup biopsy)

 

これはそれぞれ

TUR=電気メスをつかった切除で熱がかかる

生検=鉗子でつまむため熱がかからない

 

という違いになります。

 

以下は私が経験した症例です。1cmの小さめの膀胱腫瘍に対してTURBTされてきました。

全体像はこんな感じです。

通常TURはループ電極で削りだしてくるため1切片が大きかったり長いことが多いですが、術者の削り方によりチップの大きさは変動します。

 

 

↑ 血液とほぼ全体が変性 (artifact) を伴った組織です。

特に小さめの腫瘍の場合や再手術で膀胱壁が薄い場合などで検体が小さくなりがち。

技術的なこととして、1 bite が小さい・ゆっくり削る・浅く削るなどの傾向がある術者の検体は焼け焦げていて診断できない確率があがります。

 

この切片も熱変性が強く無残ですが、右半分はおそらく腫瘍(urothelial carcinoma)だと推察されます。診断には不適な検体です。

 

慎重に切除するのがダメだというわけではありません。膀胱穿孔 (perforation)を避けるために極力安全な切除を心がけているということだと思います。特に深部では tapping technique などを用いて慎重な切除をすることもあるでしょう(ただし慎重な切除と検体の質はトレードオフと考えるべき)。

 

この写真の中央には凝血塊の中に浮遊する癌細胞の小さな集塊が確認できます。

ただし、間質から遊離しているため情報の質という点では、組織診とはいえず細胞診レベルの情報だといえます。いずれにしろ情報が少なすぎて組織学的には不適切な検体といえます。

この細胞集塊すらなければ悪性という確定診断はできないかもしれません。

 

このTURだけだと間質浸潤の有無や筋層浸潤の有無といった T因子は判定できませんし、間質から遊離したCIS (pTis)なのか 乳頭状腫瘍 (pTa) なのかも判断できません。

 

というわけで、TURで熱をかけてしまう前に「とりあえず生検をしたほうが良い」と思います。 

 

こういうことは病理医にとってはしばしば経験する「あるある」でしょうし

逆に臨床医にとってはあまり考えたことがない状況ではないでしょうか。

 

TUR検体というのは、ちゃんと「腫瘍部分から採取していたとしても」不適切検体(insufficient material for diagnosis)になってしまう可能性があるのです。

 

 

泌尿器科医: 「癌の有無・組織型・筋層浸潤の有無などお願いします」

病理医: 「(これは変性が強くてひどい検体やね)癌はあると診断してもいいけど、これじゃ詳細不明だな」

Report: 「Malignancy (compatible with urothelial carcinoma)」

泌尿器科医: 「何この診断。ちゃんととってるのに癌の有無しか書いてないやん。(うちの病理医いまいちやな)」

 

というようなことが起こっても不思議ではありません。余裕のある臨床医なら病理医に連絡して尋ねるとか、実際に病理検査室を訪れて標本を見せてもらうということをするのかもしれません。が、忙しい多くの泌尿器科医は病理診断書の紙をみただけで終わらせてしまうんじゃないかと思います。

 

幸い私の診断している施設ではカンファレンスで泌尿器科医と話す機会が多くあるため、TURの前に生検をしてきてくれます。

 

実は今回の症例も続きがあります。 

こちらが本症例の生検検体です。

 

拡大すると線維血管軸を有した異型細胞の増殖が確認できます。

生検検体はTURより小さいですが、変性の少ない良検体であることがほとんど。

診断は Urothelial carcinoma, G2, high grade, pTa としました。病理診断は確定診断とされることがほとんどなので、やはり確信をもって報告書を作成できる良検体は嬉しいものです。

 

私の診断している施設では、ほとんどの場合、生検→TUR→深部生検という順序で検体を採取してくるのですが、深部生検だけはキレイな検体というわけにはいかないです。 

5個の生検組織。

拡大してみたところ。

コールドで採取してはいるものの、TUR後のbedから取っているので高度の変性が全体に加わっています。

いずれの検体も高度変性です。 わかる範囲で腫瘍の浸潤はなさそうですが、底部生検で腫瘍が認められないからといって必ずしも十分な検体ではないため情報としての価値は低いと考えるべきです。

また、固有筋層の有無もこの標本では判断できないので、「筋層(-)」と報告することになります。

 

こういうところで、質の良い検体を提出してくる臨床医は病理医からみても優秀な臨床医と評価しますし、優秀な臨床医と仕事ができると診断能力も向上するという相互関係があります。

 

TUR前に鉗子生検をしておくというのは術者にとって面倒なことかもしれませんが、確実な診断のためには重要であるということはわかっていただけたと思います。

つけくわえるなら、凝血塊の部分や壊死部をさけてfreshな腫瘍をサンプリングするようにすると質の高い検体を得ることができます。 

 

病理医と臨床医が良い情報交換ができると医療の質が高まるのはあたりまえですので自分自身としても意識しておかないとと思います。

 

最後に同じ腫瘍の組織像をTUR・生検でそれぞれ並べておきます。

 

それでは。 

【2019年版】顕微鏡撮影アダプターの改良版を作成。光軸合わせが非常にラクに。

こんにちは。

 

スマホで病理のミクロ像を撮影するために色々と工夫してきたのですが、また少し改良を加えたので報告。

 

なるべく手軽に病理組織像を撮影するために、接眼レンズから覗き込むように撮影するいわゆるコリメート法を用いてます。

 

当初はフリーハンドでスマホカメラをあてがって撮影できるよ(https://www.pathonosuke.net/entry/2016/03/09/181040)

みたいな感じでやっていたのですが、ちょっとしたテクニックが必要だったり、光が写り込んでうまくとれなかったりするので、撮影用のアダプターを作成。

(https://www.pathonosuke.net/entry/2017/08/23/220618)

それをさらに改良して

(https://www.pathonosuke.net/entry/2018/08/14/232745)

(https://www.pathonosuke.net/entry/2018/08/20/143134)

材質も木→ポリスチレン→プラのキャップ→アルミ缶のキャップのように進化させてきました。

最終的にアルミ缶の蓋に穴をあけたアダプタがシンプルで作成しやすくてよかったのですが、もうちょっと使い勝手の良いものを作りたいと思ったのが今回の記事のきっかけです。

 

とりあえず最新版はこんな感じになりました。 

 

接眼レンズの両眼の部分にひっかけるようにアダプターを設置して、自分でスマホを保持しなくてもミクロの画像を写すことができています。

 

スマホをはずしてアダプターだけにしてみました。右下の丸い穴がちょうどスマホの背面カメラの位置になります。

 

裏からみると両眼の接眼レンズにひっかけているだけ。これでも意外と安定しているのが不思議。

 

材料は極めて安価です 

・MDFとよばれる100均で販売されている繊維をかためた板材。

・六角ボルトと蝶ナットが各2個ずつ。これは接眼レンズの大きさによって微妙に変わる位置の調節用につけています。ホームセンターの小売で数十円。

 

長らくスマホを使った病理画像の撮影をやっていて気付いたことですが、スマホの位置や向きを完璧に合わせて画像を撮るというのは意外と難しいもの。

これには理由があって

①接眼レンズに対してある1点にカメラを位置させる(空間でのx, y, z の座標を合わせる) 

②接眼レンズの光軸に対してカメラの方向を合わせる(空間ベクトルの向き, x : y : z を合わせる) 

③その状態を保持する

という3点を同時に達成することが難しいからだと思います。(表現が変ですが伝わるでしょうか?)

 

この「空間的な位置」 と「空間での方向性」を正確に合わせた上で「動かさない」ようにするのが今回のアダプターの役割です。

 

接眼レンズの両眼に対して板をあてることで、この面に対して平行が得られるため①のうちのy(高さ)・z(レンズからの距離)座標が決まります。同時に②の光軸方向にカメラの方向を合わせることができてしまいます。手で保持しないので触らなければ③が達成できます。 

あとは左右にずらし①のx座標を設定する操作により、位置・方向あわせができるというのが今回のアダプターの良いところです。

 

では作成手順です。完成形をまず見ていきます。

前面から 

背面から

今までのものと比べると作成に手間がかかっています。が、さすがに素人の工作といったクオリティですね。

逆L字というか逆T字になっているところにスマホを載せます(SSA/Pではありませんw)。背面には少し大きな穴があってそこが覗き穴になります。前面の穴は径1cmで背面の穴は径3cmくらいですが、この辺はスマホカメラの大きさや接眼レンズの大きさに合わせるようにします。

 

前面の小さな四角の窓のところには六角ボルトの頭が埋めてあり背面の蝶ネジでそれぞれ留めています。

 

作成といってもMDFをのこぎりで切り出して木工用ボンドで接着するというのがおおまかな手順。 

 

自作ののこぎりガイドを使って、切っているところです。のこぎり木工というサイトを参考にしました。

 

サイズはかなり適当でとにかく現物合わせです。ただし厚みだけは14mmくらいになるように切り出しました。

板の面に対して垂直に切らないと精度がでないかもしれないのでガイドを使い丁寧に。

 

 

これを木工用ボンドで箱型に接着していきます。

 

さらに穴あけをやっていきます。以前作ったアルミ缶のキャップを使いつつシルシをつけていきます

穴あけにはやはり電動工具がないと難しいです。

糸鋸やジグソー・ホールソーなどがあるといいのですが持っていないので、たくさん穴をあけてくりぬき、やすりで整えました。

 

次にスマホを載せる台の部分を作ります。これも適当なサイズに切り出してボンド接着です。接着するときにきっちり位置を合わせておかないとカメラと穴の位置があわなくて困るので、ここは慎重に。

 

 

裏側の引っ掛ける部分は残ったMDFを使います。クリップで留めて使ってみたところです。このとおり手を離していても顕微鏡画像がキレイに表示されています。

 

手を離しても大丈夫なので、この状態で視野を動かしても大丈夫ですし、対物レンズを変更することもできます。 オートフォーカスが効くのでピントは勝手に合います。

 

クリップのままでも使用できますし、ボンドで固定してしまうこともできますが、ここでは上下方向に調節できるようにひと工夫。 

引っ掛け部分に2ヶ所の溝を作り

 

反対側(表側)から穴をあけてボルトを通し、蝶ナットで固定します。

表側にボルトの頭がでると困るので、中に埋まるように窓を広げました。

ナットをゆるめることで引っ掛け部分を上下に動かすことができます。 

 

これで完成です。

 

とにかく

・光軸合わせがラク

・手がフリーになる

・ブレがない

・動画を撮る事も可能

など、メリットが増えました。またここから発展して

・テレビ電話ができるアプリを使えば (LINE, DUO, skype, ZOOMなど)、リアルタイムで画像を見ながら話ができる

ということも可能になりました。専用のシステムなしに遠隔病理コンサルテーションやカンファレンスも行うことができそうです。

予定はありませんが、診断の様子を実況中継するユーチューバーにもなれそうですね。

 

デメリットを挙げてみると

・作るのが手間

・やや大きい(17×8×3cmくらい)

・自分のスマホ専用(買換えたら辛い)

・落ちてしまう不安がある(スマホ置くだけ、アダプタひっかけるだけ)

など弱点もあります。

実際にかばんに入れて持ち運ぶというよりも自分の顕微鏡のそばに置いて、画像を取りたいと思ったときに使うというやり方をしています。

 

サイズの違うスマホでも使えるように調節機構を加えたり、材料をかえたり、保持機構を工夫したりと、基本的な構造を変えずに改良するのが今後の目標です。

 

今回使用した道具はこちらです。 

Z ライフソークラフト 145 本体 No.30023

Z ライフソークラフト 145 本体 No.30023

 

 

マキタ(Makita)  充電式ドライバドリル 10.8V 1.3Ah バッテリー2個付き DF030DWX

マキタ(Makita) 充電式ドライバドリル 10.8V 1.3Ah バッテリー2個付き DF030DWX

 

 

 

消化器病理の教科書を買ってみた。「3週間de消化器病理: 臨床医のための病理のイロハ」

こんにちは。

 

専門ではないけれど避けては通れないというのが消化器病理。

 

自称泌尿器病理といいながら実際には消化器の標本を見ている数のほうがはるかに多いので、かるく勉強してみようと思いamazonで評価の高かった「3週間de消化器病理: 臨床医のための病理のイロハ」を買ってみました。

 

3週間de消化器病理: 臨床医のための病理のイロハ

3週間de消化器病理: 臨床医のための病理のイロハ

 

 

だいたい専門書というのはほとんど英語だし分厚いしで通読するには不向きなのですが、本書は大きさ・分量が抑えられていて良い感じ。

 

iPadよりも小さく

厚みもiPadと同じくらい。で重さも軽い。

 

かばんに入れて持ち運ぶことができるというのは、すきま時間を利用して勉強するにはありがたいです。

 

病理の教科書というとミクロの画像が載っていたり、臓器の写真がのっていて電車のなかで広げるのは抵抗があったりするのですが、この本は写真はなくて、わかりやすいイラストで説明されているので人目を気にせず読むことができます。

 

こんな感じです。

上は鋸歯状腺管の模式図の部分ですが、SSA/Pなどの新しい概念についても特徴を踏まえて解説されていて病理医が読んでも勉強になります。遺伝子異常についても触れてあり、細かすぎず適度に読みやすい情報量になっていて通読向けに良い感じです。

 

個人的には会話形式の本はなじみが薄くてあまり読まないのですが、こうすることで難解な言い回しや表現が抑えられていると思います。

 

ですので臨床医ターゲットの教科書ではあるものの、専門外の病理医から研修医・学生にいたるまで幅広い層におすすめできる内容にはなってるんじゃないかと。

 

以前備忘録のために記事にしたMattsの生検組織分類も載ってました。

 

 

読み手によって役立つポイントが異なりそうではありますが、病理医としては消化器病理のお手本ともいうべき病理診断報告書を見ることができるというのがポイント高いです。

 

ここまで丁寧に胃生検組織の診断することはなかったですが、明日からの診断のお手本にしてみますw。

 

生検だけでなくESDの病理診断報告書や、このほか多数の診断が載っていますので、どこに出しても恥ずかしくない報告書のフォーマットが参照できるという意味でも役に立つと思いますし、今までの成書ではなかったポイントですね。

 

あと個人的には普段「です」・「ます」の文体ではなくて、「である」「認める」のような文体で診断書を書いているので真似しやすくていいかんじです。

 

内容的には190ページの中に日常診療で重要なテーマが厳選されています。 

 

3週間de消化器病理のタイトルのとおり、21のテーマにわかれています(1日1テーマ)。もちろんすべての消化器病理を網羅しているわけではありませんが、 すきま時間で読めて短時間で知識を得るためには効率的に編纂されていると感じました。

 

最近part2も出版されたようです

構成はpart1と同様で、消化管と肝胆膵が半分ずつになっているようですので、読み終えたらチャレンジしてみようと思います。

3週間de消化器病理2: 臨床医のための病理のイロハ

3週間de消化器病理2: 臨床医のための病理のイロハ

 

 

 

 

 

毛母腫の組織像

こんにちは。

 

毛母腫 (pilomatricoma) の組織像です。石灰化上皮腫 (calcifying epithelioma) とも呼ばれます。

 

たまに見る腫瘍なのですが、組織像が独特なので見たことがあると印象に残りやすいと思います。

 

弱拡大で濃い紫色にみえるところがbasophilic cells で、薄いピンク色に見えるところが shadow cells の集まったところです。

 

左側が basophilic cells , 右側が shadow cells です。毛母細胞を模倣する細胞と、毛髪になりそこなった細胞だそうです。

 

このbasophilic cells は細胞密度もN/C比も高く、一見悪性腫瘍のようにみえてぎょっとします。写真の真ん中あたりには多核巨細胞が見えますが、このような異物反応を認めることも多いですし石灰化や骨化を見ることもあります。

 

 

みき先生の皮膚病理診断ABC (2) 付属器系病変

みき先生の皮膚病理診断ABC (2) 付属器系病変

 

 

ケラトアカントーマの組織像

こんにちは。

 

ケラトアカントーマ (keratoacanthoma) の組織像です。

 

画像のようにドーム状の隆起をしめす病変で、底部が丸く収束しています。これを 「cup-shape」 と表現されます。 真ん中は角栓を容れてやや陥凹が見られます。

 

角化が目立ちます。細胞質は豊富。 

 

胞巣の深部ではリンパ球主体の炎症細胞浸潤が見られます。炎症のためか拡大を上げると境界が不明瞭な印象があります。 これくらいの異型性はあっても良いかと思います。

 

 

病変の周囲では表皮が口唇状に持ち上がるように見えます。これは「overhanging lip とか lipping」 と呼ばれます。

 

臨床的には

・中年以降に好発

・90%以上が顔面に

・数週間で増大して数ヶ月で消退する

・直径1-2cm

という特徴があります。

 

 

皮膚科サブスペシャリティーシリーズ 1冊でわかる皮膚病理

皮膚科サブスペシャリティーシリーズ 1冊でわかる皮膚病理

 

 

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