uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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尿路上皮癌の再発に関する2つの説「intraluminal seeding」,「field cancerization」について。

こんにちは。

 

尿路上皮癌は大きく上部尿路(腎盂・尿管)癌と膀胱癌に分類されます。

 

腎盂尿管癌の場合は治療として腎尿管全摘が選択されるわけですが、術後には高い確率(22-47%)で膀胱内再発が生じます。

 

このメカニズムとして多中心性発生 (field cancerization / field effect) によるとする説と,上部尿路から膀胱への腫瘍細胞の播種 (implantation / intraluminal seeding) によるとする説があり、それぞれを支持する研究があるため、どっちが正しいとの結論には至っていないと思われます。

 

以前調べた時は、播種説のほうが有力だという理解をしていたのですが、知識をアップデートすべく最近でた論文をチェックしてみました。

 

まずは古い論文から。 

www.ncbi.nlm.nih.gov

↑ こちらは1993年の羽淵先生の論文(Lancet)ですが、この記事では播種を支持しています。(アブストラクトしか参照できません)

p53遺伝子に着目した研究で、上部尿路癌と膀胱癌で同じ変異が見られたという趣旨です。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

↑ 同じく羽淵先生が2005年にかかれた総説で、フリーで全文読むことができます。ここでは ‘field defect’ hypothesis  と  'single progenitor cell' hypothesis というタームで解説されており、やはり後者の説を支持する内容。

これを読むと、やっぱりdisseminationによる再発なのだと納得させられます。

 

逆に field cancerization を支持する論文もあります。こちらも2005年でインディアナ大学の研究です。(フリーで参照可)

LOH assay で microsatellite alterations を調べたり X-chromosome inactivation のパターンを調べるという手法です。microsatellite alterations ⇒ 9p21-22 (D9S171 and IFNA) and 17p13 (TP53)。

11名の女性と10名の男性の合計21名での研究ですが、x-chromosome inactivation は女性のみになるのでやや少ない印象を受けます。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

さて、こちらは2019年の clinical cancer research です。Memorial Sloan Kettering Cancer Center からの報告。(オープンアクセスではありませんが)

内容をざっと見ていきます。

・UTUC(上部尿路癌)とUCB(膀胱癌)について次世代シーケンサーを使ってゲノムの違いを調べた。・・・この辺はさすがに最新研究

・UTUCが195例、UCBが454例

・29例は、UTUC後にUCBを生じた症例 ・・・腎盂尿管癌術後の膀胱再発(ココを知りたい)

・この29例のサブグループにおいては腫瘍のクローンの関係性 (clonal relatedness) を調べるためにUTUCとUCBのペアを解析した。

・UTUCは43%が非筋層浸潤癌、39%が筋層浸潤癌、18%は有転移症例(UCBはそれぞれ、33%, 47%, 20%)

targeted NGS analysis を用いて275-468の癌関連遺伝子について腫瘍・germ line DNAの両者について調べた。・・・Lynch症候群についても調べるため

・UTUCで最も良く変異がみられたのは、FGFR3 (40%), KMT2D (37%), KDM6A (32%), TP53 (26%), ARID1A (23%)

 ・ステージが高いと、RTK/RAS pathway の変異が少なく、TP53/MDM2の変異が多く見られた。

・UCBとUTUCを比較すると、UCBではTP53. RB1, ERBB2に変異が多く、UTUCではFGFR3とHRASの変異が多かった。

・195例のUTUCのうち、137例は腎尿管摘除をうけ、57例 (42%) がのちに膀胱内再発を来した(再発までの中央値は7.3か月) 

・FGFR3, KDM6A, CCND1 の変異を持つ腫瘍は膀胱内再発のリスクが高く、TP53変異を持つ腫瘍は膀胱内再発のリスクが低い。

 ・クローンの関連性を調べたところ、すべてのUTUCと再発性UCBのペアにおいて、共通のクローン起源を有していた (P<0.005)。ただし、病変によりいくらかのheterogeneity (86% しかsomatic mutation が共通していないものがあった?) が観察された。

 

Figure5 に oncoprints と venn diagram が載っているのですが、視覚的にほぼ上部尿路癌と続発膀胱癌のsomatic mutation が一致しているのがわかります。

癌においては腫瘍内の部位によって性質が異なる=heterogeneity を有するというのは当然ですが、これだけ網羅的に変異を解析した上でクローンの起源が共通しているという結論が得られているので、この研究は今まで以上に説得力があります。

以前の研究では、LOHやX染色体賦活化で数個の遺伝子を調べるだけだったのが、今では数百個の遺伝子をターゲットにしているんですから隔世の感があります。

 

他にここ最近の反対意見がでていないか調べましたが、2015年にMSKCCから似たような論文が出ている他には、このテーマに関しての報告は見つけられず。

 

ということで、最新の研究においても多中心性発生より播種説(単一クローン説)が強力であるという理解で良さそうです。

 

それでは。

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