uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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TURBTの際に生検 (cold cup biopsy) をしておく必要はあるか。

こんにちは。

 

膀胱腫瘍に対するTURBT (transurethral resection of bladder tumor) は泌尿器病理においてはかなりポピュラーな検体です。

 

泌尿器科医にとっても前立腺生検に次いで身近な病理検体ではないかと。

 

「TURBTの際に生検 (cold cup biopsy) をしておく必要性。」というテーマですが、結論としては「主病変のコールド生検はTURする前にやっておきましょう」ということです。当たり前だと思われた人はこの記事を読まなくて大丈夫です。

 

ランダム生検が必要かどうかというのは症例によって術者が判断すればよいことだと思いますが、今回の要点は、ターゲットとなる病変がある場合(なくても second-TURのような場合も)では、コールド生検をしましょうということです。

 

まず確認として経尿道的な手術の場合は、組織採取に大きく2つの方法があります。

 

・ループ電極をもちいた切除 (hot resection)

・鉗子をもちいた生検 (cold cup biopsy)

 

これはそれぞれ

TUR=電気メスをつかった切除で熱がかかる

生検=鉗子でつまむため熱がかからない

 

という違いになります。

 

以下は私が経験した症例です。1cmの小さめの膀胱腫瘍に対してTURBTされてきました。

全体像はこんな感じです。

通常TURはループ電極で削りだしてくるため1切片が大きかったり長いことが多いですが、術者の削り方によりチップの大きさは変動します。

 

 

↑ 血液とほぼ全体が変性 (artifact) を伴った組織です。

特に小さめの腫瘍の場合や再手術で膀胱壁が薄い場合などで検体が小さくなりがち。

技術的なこととして、1 bite が小さい・ゆっくり削る・浅く削るなどの傾向がある術者の検体は焼け焦げていて診断できない確率があがります。

 

この切片も熱変性が強く無残ですが、右半分はおそらく腫瘍(urothelial carcinoma)だと推察されます。診断には不適な検体です。

 

慎重に切除するのがダメだというわけではありません。膀胱穿孔 (perforation)を避けるために極力安全な切除を心がけているということだと思います。特に深部では tapping technique などを用いて慎重な切除をすることもあるでしょう(ただし慎重な切除と検体の質はトレードオフと考えるべき)。

 

この写真の中央には凝血塊の中に浮遊する癌細胞の小さな集塊が確認できます。

ただし、間質から遊離しているため情報の質という点では、組織診とはいえず細胞診レベルの情報だといえます。いずれにしろ情報が少なすぎて組織学的には不適切な検体といえます。

この細胞集塊すらなければ悪性という確定診断はできないかもしれません。

 

このTURだけだと間質浸潤の有無や筋層浸潤の有無といった T因子は判定できませんし、間質から遊離したCIS (pTis)なのか 乳頭状腫瘍 (pTa) なのかも判断できません。

 

というわけで、TURで熱をかけてしまう前に「とりあえず生検をしたほうが良い」と思います。 

 

こういうことは病理医にとってはしばしば経験する「あるある」でしょうし

逆に臨床医にとってはあまり考えたことがない状況ではないでしょうか。

 

TUR検体というのは、ちゃんと「腫瘍部分から採取していたとしても」不適切検体(insufficient material for diagnosis)になってしまう可能性があるのです。

 

 

泌尿器科医: 「癌の有無・組織型・筋層浸潤の有無などお願いします」

病理医: 「(これは変性が強くてひどい検体やね)癌はあると診断してもいいけど、これじゃ詳細不明だな」

Report: 「Malignancy (compatible with urothelial carcinoma)」

泌尿器科医: 「何この診断。ちゃんととってるのに癌の有無しか書いてないやん。(うちの病理医いまいちやな)」

 

というようなことが起こっても不思議ではありません。余裕のある臨床医なら病理医に連絡して尋ねるとか、実際に病理検査室を訪れて標本を見せてもらうということをするのかもしれません。が、忙しい多くの泌尿器科医は病理診断書の紙をみただけで終わらせてしまうんじゃないかと思います。

 

幸い私の診断している施設ではカンファレンスで泌尿器科医と話す機会が多くあるため、TURの前に生検をしてきてくれます。

 

実は今回の症例も続きがあります。 

こちらが本症例の生検検体です。

 

拡大すると線維血管軸を有した異型細胞の増殖が確認できます。

生検検体はTURより小さいですが、変性の少ない良検体であることがほとんど。

診断は Urothelial carcinoma, G2, high grade, pTa としました。病理診断は確定診断とされることがほとんどなので、やはり確信をもって報告書を作成できる良検体は嬉しいものです。

 

私の診断している施設では、ほとんどの場合、生検→TUR→深部生検という順序で検体を採取してくるのですが、深部生検だけはキレイな検体というわけにはいかないです。 

5個の生検組織。

拡大してみたところ。

コールドで採取してはいるものの、TUR後のbedから取っているので高度の変性が全体に加わっています。

いずれの検体も高度変性です。 わかる範囲で腫瘍の浸潤はなさそうですが、底部生検で腫瘍が認められないからといって必ずしも十分な検体ではないため情報としての価値は低いと考えるべきです。

また、固有筋層の有無もこの標本では判断できないので、「筋層(-)」と報告することになります。

 

こういうところで、質の良い検体を提出してくる臨床医は病理医からみても優秀な臨床医と評価しますし、優秀な臨床医と仕事ができると診断能力も向上するという相互関係があります。

 

TUR前に鉗子生検をしておくというのは術者にとって面倒なことかもしれませんが、確実な診断のためには重要であるということはわかっていただけたと思います。

つけくわえるなら、凝血塊の部分や壊死部をさけてfreshな腫瘍をサンプリングするようにすると質の高い検体を得ることができます。 

 

病理医と臨床医が良い情報交換ができると医療の質が高まるのはあたりまえですので自分自身としても意識しておかないとと思います。

 

最後に同じ腫瘍の組織像をTUR・生検でそれぞれ並べておきます。

 

それでは。 

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