uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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精巣腫瘍の診断。鞘膜への露出や精巣網への浸潤について。

こんにちは。

 

精巣腫瘍の診断においては、まず組織型ありきなのですが、ステージングのためには脈管侵襲像や精巣鞘膜への露出がないかどうかということも見ておく必要があります。

 

そのあたりは精巣腫瘍取扱い規約についての記事がありますのでそちらを参照してください (R)。

 

今回は鞘膜への露出像や精巣網 (rete testis)への浸潤像です。

 

まずは鞘膜露出。

 

こちらはセミノーマ症例です。腫瘍細胞の白膜への浸潤がみられるとともに写真の右側では一層の中皮細胞に覆われた精巣鞘膜を認めます。

 

比較的広い範囲で鞘膜直下への腫瘍細胞の進展が見られるため、鞘膜への露出と判断できます。

実際に漿膜の中皮細胞に浸潤するとびらん状になって中皮が確認できなくなることが多いと思いますので、組織像と肉眼所見を把握して判断しなくてはなりませんが、このような場合は鞘膜への露出とし, T2と判断しています。

 

 

続いて精巣網 (rete testis) への浸潤です。

 

画面の上半分には浸潤のない rete testis が認められます。下方から セミノーマ細胞が進展してきています。

 

浸潤部のあたりの拡大像になります。これを腫瘍による圧排ととらえるか、rete への浸潤ととらえるかは意見が分かれるかもしれませんが、このくらい rete を破壊して進展していれば浸潤と考えても良いかと。

 

実際に報告書にこれを書く必要があるかというと微妙なところではあります。

 

2017年にISUPから出されたRecommendationでは 

・Pagetoid involvement of the rete testis epithelium must be distinguished from rete testis stromal invasion, with only the latter being prognostically useful.

と記載されており、rete testis への間質浸潤の有無が予後に影響があるというコンセンサスにはなっています。ですので浸潤があれば報告書に盛り込むというスタンスでいいと思われます。

(上記論文は全文公開されていません。ISUPのコンセンサスくらいフリーアクセスにして欲しいところです)

 

Rete testis への浸潤がステージングや予後に与える影響について最近の論文を調べてみました。 

 

↓こちらはあまり影響がないとする結果

2019年のAJCPにウィスコンシン大学からの報告です。

・171例のセミノーマと、178例の非セミノーマ (NSGCT) を5施設から集めた 

・Rete direct invasion (ReteD) と rete pagetoid spread (ReteP)について検討

・ReteP and ReteD はセミノーマでの頻度が高かった(NSGCTでは少ない)。

・セミノーマでは3cm以上か未満かによって転移率に差あり

・ReteP or ReteD の有無と腫瘍サイズに相関はなし。しかしLVI/SCI(脈管侵襲や精索浸潤)症例に比べるとサイズは小さかった。

・ReteP or ReteD の有無と(セミノーマの)転移・再発には差がない。

・NSGCTにおいても、ReteP or ReteD の有無はサイズ・転移・再発いずれも相関なし。

結論として、AJCCのステージ1の亜分類を変える必要はないと言っています(AJCCではセミノーマのみ3cmを基準にpT1a/ pT1b を分けています)。

 

↓次は予後に影響するという立場。 

2019年のトルコからの報告では、59例のGCTを集めて検討していますが、

・Hilar soft tissue invasion と vascular invasion に相関あり (p = 0.001)

・vascular invasion は転移と関連していた (p = 0.024)

・腫瘍マーカーのレベルは、rete testis invasion と関連していた (p = 0.035)

と結論しています。全文は参照できないのでアブストラクトだけなのですが、用語(rete testis invasion と hilar soft tissue invasion)が統一されていない上にそれが同じ状態を指しているのかわかりにくい(一般的に rete testis と hilar soft tissue は別物)点や、「rete浸潤と脈管侵襲に相関があって、脈管侵襲と転移に相関がある、だからrete浸潤は予後因子だ」みたいな三段論法になっているので、rete浸潤と予後には強い相関がないのでは?という印象を受けてしまいます。

 

少し遡ると2013年のModern Pathology でNSGCTに関して、

・多変量解析で脈管侵襲・rete tesitis invasion ・ hilar soft tissue invasion が進行度と有意に相関していた

という報告がありました。

 

最近の論文では否定的な報告もありますが、おそらく rete testis や hilar soft tissue まで浸潤がおよぶと予後が悪化するというのは本当のところなのかなと思われます。

 

さすがに、ないよりはあったほうが悪いというのは当然として、それがどの程度予後へ影響するのかというところでは議論の余地があり、現時点ではステージングに及ぼすほどではないようです。

 

それと、正常の精巣のサイズはだいたい4×3×2cm ほどですので、5cm以上の大きさの腫瘍ではほとんど精巣実質が消失していると思います。そのような症例では、rete testis も置換されるか消失していて、評価が難しいんではないか?評価する意味があるのか?などと思ったりもします。

 

このへんは引き続き気をつけて見ていきたいところです。それでは。

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