uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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潰瘍性大腸炎におけるMatts grade について【組織】

こんにちは。

 

潰瘍性大腸炎症例で、生検されてきた場合にMatts分類の記載を依頼されることがあります。しかし手持ちの成書には載っていないので調べてみました。

 

 

 

基本的にUlcerative colitis の活動性を評価するのは内視鏡所見ですので、組織学的評価は重視されていない感じです。生検組織による評価はサンプリングバイアスやそもそも病理組織は形態を見ているため定量化に不向きなので当たり前かもしれません。

 

炎症の程度を評価するためのスコアには、

Mayo score, Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity (UCEIS) score, Baron Score, Ulcerative Colitis Colonoscopic Index of Severity (UCCIS), Rachmilewitz Endoscopic Index, Sutherland Index, Matts Score, and Blackstone Index

といった様々な指標があるようです。(↓ 下記を参照)

academic.oup.com

 

Mattsスコアというのはあまりメジャーではないようですね。この文献では ↓ のように記載されています。

The Matts Score is based on the granularity, bleeding, and ulceration of the colonic mucosa. A score of 1 is given for normal mucosa, while a score of 2 is given for mild mucosal granulation with mild bleeding with intervention with an instrument [38]. A score of 3 is given for significant mucosal granularity and edema with contact and spontaneous bleeding, and a score of 4 is given for severe mucosal ulceration and hemorrhage [38].

 

Mattsスコアの元ネタは、1961年。かなり古い論文です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

残念ながら論文の内容については参照できません。

 

Matts分類が参照できる論文がなかなか見当たらなかったですが、日本消化器内視鏡学会雑誌の2006年に記載されていました。 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee1973b/48/4/48_4_977/_pdf/-char/ja

↑こちらを参考にさせていただきました。

 

Mattsの生検組織所見スコア

Grade1 ⇒ 正常

Grade2 ⇒ 円形細胞あるいは多核白血球の粘膜・粘膜固有層への浸潤

Grade3 ⇒ 粘膜・粘膜固有層・粘膜下層におけるより多くの細胞浸潤

Grade4 ⇒ 陰窩膿瘍の存在、粘膜全層につよい細胞浸潤を伴う

Grade5 ⇒ びらん・潰瘍あるいは粘膜壊死、粘膜全層ないしは一部の層に細胞浸潤を伴う

 

陰窩膿瘍 (crypt abscess) があれば Grade4 になる。Grade2 と Grade3 の違いは炎症細胞浸潤の程度の強さということです。 びらん・潰瘍形成があればGrade5になります。

 

Mattsの内視鏡所見スコア

内視鏡所見スコアについては5段階ではなく、4段階の評価です。一応記載しておきます。

Grade1 ⇒ 正常

Grade2 ⇒ 軽度顆粒状粘膜で、軽度の接触出血を伴う

Grade3 ⇒ 著明な顆粒状粘膜、浮腫状粘膜で、接触出血と自然出血を伴う

Grade4 ⇒ 出血を伴う潰瘍多発

 

尺度の違いについての注意

病理組織を診ているとよくグレーディングすることがあります。そして組織像を数値化することはデータを扱う上では都合が良いということもわかります。なじみのGleason grade から消化管のGroup分類など、臨床ではペインスケールやPSなど様々な尺度が数値化されています。

これらは「順序尺度」と呼ばれる質的データの1つなので、「順序や大小には意味があるが間隔には意味がないもの」です。「1」の差でもその間隔が均等という保証はありません。検査データの値(HbとかPSAとか)や生存期間などの数字そのものが意味を持っている量的データのようには演算することができない変数です。

 

なぜこれが気になったか?

というのも、前出の論文ではCSAI (colonoscopic activity index) という「順序尺度をもとに演算を行っている指数」が載っていました。

もともと定量的なデータでないものを基にして、さらに複雑な演算をして算出しています。本質的に演算できないはずのものを演算して算出された指数です。

便宜的に定量的な評価をするために考案されたのだと思いますし批判するつもりはありません。ただし、もともと演算できない順序尺度を用いているということは理解しておきたいとは思います。

「統計や数字は人をだます」ことがあります。数字があらわしているものについてはなるべく理解しておきたいと感じました。

 

それでは。

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