uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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TAEによる膀胱癌の組織変化

こんにちは。

 

泌尿器病理の中でも膀胱癌に対するTURBTというのは変性が強い組織の一つです。

 

生検であればそれほど組織像の変化はないのですが、熱がかかる・分断される・挫滅が加わるなどの変化が大きい「ループ電極での切除」は病理医泣かせといえます。変性・artifact の高度な検体を見るのは誰でも辛いものです。

(泌尿器病理医を専門とする人間が少ない原因の一つがTURBTの診断ではないかと思うぐらいです。)

 

今回は出血をともなう膀胱癌に対してTAEがなされた後にTURBTが行われた症例です。

 

TAEにより膀胱の栄養血管を塞栓するわけですので、血流が減少して腫瘍が壊死に陥ると予想されます。

 

 

このようにartifactがかかり、腫瘍細胞が引き延ばされるように変形したり核が線状になったりしていますが、なんとか浸潤性尿路上皮癌と診断できます。この画像上は静脈侵襲像も見られます。よくみる変化ですので、TAEの影響ではなくTURによるartifactと思います。

 

↑ おそらく非浸潤部分の腫瘍集塊です。好塩基性に染まるはずの核が脱色しています。これは普段見ない像ですので、TAEにより虚血に陥った乳頭状腫瘍を見ていると思われます。核は脱色していますが、クロマチンの構造はなんとなく判別できますし、尿路上皮癌と認識できます。

 

ここまでくると、腫瘍細胞の結合性を欠く部分が出現し、細胞境界も分かり難くなっています。核もべたっとしてきてクロマチンの構造はわかりませんし、核縁の不整も判定できなくなります。これだと細胞密度から尿路上皮癌かもしれない、というレベルでしょうか。

 

↑ この写真単独では何なのかわかりません。変性・壊死に陥ってゴースト様になった尿路上皮癌なのだろうと推測できますが、他の視野の像があって初めて推測できるレベルです。 

 

他臓器の診断では、診断報告様式の中に判定区分として「検体不適正 (inadequate)」か「検体適正 (adequate)」かを記載することがあります(cf. 乳腺の針生検)。

病理診断の質を決める最も大事なfactorは "sampling quality" であり、 質の低い検体から得られる情報は限定的です。

TURBTの病理診断に判定区分を導入すると、検体不適正が大部分を占めることになり混乱すると思います。ですが、それくらい検体の質は大事なのだと思います。

 

限られた所見から、最大限の情報を引き出すためには見慣れておくしかないですが、今回のように虚血による組織変化が段階的に見られた症例は珍しいと思いました。 

 

それでは。

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