uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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膵 neuroendocrine tumor (NET) の組織像と2017年WHO分類について

こんにちは。

 

泌尿器科領域における神経内分泌腫瘍 (neuroendocrine tumor: NET) はかなり稀です。

膀胱・前立腺の小細胞癌や膀胱のcarcinoidを経験したことはありますが、肺・消化器領域とくらべると頻度が少ないため、今回は専門外ではありますが、勉強したことをメモしておきます。

 

私が最近経験した症例は腎を巻き込む膵原発のNET (NEC) であり、後腹膜腫瘍の臨床診断で生検されてきました。

組織像をみると、これといった特徴的な分化があるようにはみえません。

好酸性の細胞質と比較的均一な核を持つ腫瘍細胞が胞巣状に増殖しています。腺分化や扁平上皮への分化はないですが結合性はあるので、低分化な上皮性悪性腫瘍を思わせる像です。

 

HE像を最初に見たときに腎盂癌の可能性も考えたのですが、残念ながら私の印象は外れていました。

 

この後、免疫染色で腫瘍細胞が chromogranin および synaptophsin 陽性を示したため NETと考えられました。

 

膵消化管NETの場合はG1・G2・G3(= neuroendocrine carcinoma: NEC) と分類されていた(2010年のWHO分類)のですが、2017年の新分類では膵について変更があり、NET G3 = NEC ではなく、G3がNETとNECに細分化(すなわち PanNET G3 と PanNEC G3 )されました。

 

膵のWHO分類2017

図のように、Ki-67 index と分裂像によってGradingがなされるわけですので、少なくとも Ki-67の免疫染色で評価する必要があります。 

 

ただし、G3 PanNET と PanNEC(G3) の Ki-67 index はいずれも >20% となっていますので、Ki-67 のみで鑑別することができず、高分化か低分化かの形態が重要ということになります。

 

神経内分泌マーカーがびまん性強発現するのはNETの特徴であり、弱もしくは局所的な発現はNECの特徴だそうです。

 

通常はPanNET G3 は Ki-67 labeling index が 55%以下であることが多いという話もあります。

(ノバルティスHPを参照 https://drs-net.novartis.co.jp/siteassets/dr/04support/lecture/net/diagnosis/pdf/pannens_who2017_point.pdf

 

Ki-67 labeling index の数え方

自験例では形態的にそれほど特徴的な像がないことから低分化 (NEC) の可能性が高いと判断しましたが、Ki-67 についてもカウントしてみました。

先ほどのWHOの記載では、「500以上の細胞を数える」「画像を印刷して数える」と書かれています。今回は画像にマーキングして数えました。

 

こちらが生検組織から選んだ hot spot 。

 

そこから少し範囲を絞っていますが、陽性細胞を赤で陰性細胞を青でマーキングします。(これは相当に手間のかかる作業でした。)

ここから陽性細胞 / 陰性細胞 を計算すると・・・374/683=0.547584187 

と約55%になりました。ここでは核にうっすらと染まっているものは陰性と判断しましたが、薄い染色でもすべて陽性ととれば55%をこえてくるでしょう。

自験例ではNET G3 か NEC G3 かを厳密にわけることは難しいと思われますので、臨床像なども加味して総合的に判断すべきかもしれません。

 

高分化型のPanNET と低分化型のPanNEC の生物学的な違い

2017分類で細分化されたこの2つですが、すこし文献を調べてみました。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

1つは、PanNETs つまり高分化型のNETについての論文です。10+58例に対して調べています。

・44%にMEN1の変異がみられ、43%にDAXX/ATRXに変異が見られた

[ DAXX (death-domain-associated protein) ・ ATRX (α thalassemia/mental retardation syndrome X-linked) ]

・この2つの変異があると予後が良い。

・14%の例ではmTOR pathway にも変異があった。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

もう1つはNETとNECについて、つまり高分化型と低分化型についての論文です。

・KRAS, CDKN2A/p16, TP53, SMAD4/DPC4, DAXX, ATRX, PTEN, Bcl2, and RB1に関して免疫染色で変異を調べる。

・さらに9 small cell NECs, 10 large cell NECs, and 11 well-differentiated neuroendocrine tumors (PanNETs) に対して配列をしらべた。

・NEC(small と large) では p53 (95%), Rb (74%) に異常が多く見られたが、Smad4/Dpc4, DAXX, and ATRX はほぼ異常がなかった。

・NET ではこれと反対に p53 や Rb に異常はなく、DAXX and ATRX は45%で異常が見られた。

・Bcl-2の過発現はNECで100%、NETで50%にみられ、高いmitotic rate および Ki67 labeling index と相関していた。

・small cell NEC と large cell NEC は遺伝学的に似通っていた。

 

併せると、

高分化型である PanNET ⇒  DAXX/ATRX と MEN1 に変異

低分化型である PanNEC ⇒  p53 や Rb に変異がある

という分子生物学的な違いが見えてきます。

 

高分化か低分化の違いにより、予後だけでなく治療法も異なるようですので、今後さらに検討されていくのでしょう。 

 

最後に

専門分野だけでも進歩についていくのは大変ですが、その他の分野については勉強する機会もないので本当に知らないことばかりです。

 

以下、WHO分類のブルーブックです。 

Who Classification of Tumours of Endocrine Organs (World Health Organization Classification of Tumours)

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WHO Classification of Tumours of the Digestive System (World Health Organization Classification of Tumours)

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