uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

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後腹膜脂肪肉腫では、「脱分化型脂肪肉腫に横紋筋肉腫様の分化を伴う」ことがある。

こんにちは。

 

自称泌尿器病理医が日常出会った症例や調べたことなどを書いています。

 

 

後腹膜脂肪肉腫の症例を経験 

後腹膜脂肪肉腫の症例を診断する機会があったのですが、筋原性マーカーが陽性を示していて迷いました。

 

肉眼的にもHE像でも高分化脂肪肉腫に脱分化をともなった症例ではないかと考え、またMDM2, CDK4, p16が陽性だったことがそれを支持していました。が、desmin, α-SMA が腫瘍細胞に陽性像を示していました。

 

追加で染色した myogenin, MyoD1 においても陽性像がみられましたので、横紋筋への分化ではないか、もしかして横紋筋肉腫?などと考えました。

 

検索したところ、「脱分化型脂肪肉腫に横紋筋肉腫様の分化を伴う」ことがあるようです。

 

論文ひとつ目 

1つ目の論文は2007年のAJSPでフランスからの報告です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

論文タイトルは

「Dedifferentiated liposarcomas with divergent myosarcomatous differentiation developed in the internal trunk: a study of 27 cases and comparison to conventional dedifferentiated liposarcomas and leiomyosarcomas.」 

アブストラクトだけ抽出してみると

・ 脱分化型脂肪肉腫 (dedifferentiated liposarcoma: DLPS) は後腹膜肉腫の中で最も頻度が高いもののひとつで、体幹部 (internal trunk) の未分化肉腫では最も代表的である。

・約5%の症例で、脱分化部分は平滑筋肉腫や横紋筋肉腫のような異所性 (heterologous) の肉腫成分である。

・筋への分化を伴った体幹部発生の肉腫を再評価した(65例)

・当初の診断は、平滑筋肉腫37例、横紋筋肉腫6例、悪性間葉系腫瘍6例、DLPS16例

・免疫染色 (MDM2, CDK4, alpha smooth actin, desmin, caldesmon, myogenin, c-kit, and progesterone receptor ) と 定量的PCR による MDM2, CDK4 の増幅を調べた。

・レビューの結果、平滑筋肉腫37例→35例、横紋筋肉腫様のDLPSが20例、平滑筋肉腫様のDLPSが7例、おそらくDLPSが2例、悪性間葉系腫瘍1例

( ・・・つまり平滑筋肉腫35例とDLPS29例に大別されたということです)

・平滑筋肉腫とDLPSを比較すると、「腫瘍径はDLPSが大きい」・「5年無再発生存は平滑筋肉腫が低い」・「5年転移なし生存はDLPSが低い」・「全生存率は有意差なし」であった。

・筋分化をしめすDLPSは通常のDLPSとくらべて予後に違いはない。

・結論として成人の体幹内部に発生する横紋筋肉腫様分化を示す肉腫のほとんどはDLPSである。

 

ざっと読んだところこのような方向性でした。この論文の主旨にしたがうと、自験例は横紋筋肉腫と診断するのではなく、横紋筋への分化をしめす脱分化型脂肪肉腫とするべきなのでしょう。

 

論文ふたつ目

2つ目の論文は日本からの症例報告です。2005年ですので10年以上前になります。あまり報告例がないんですね。

www.ncbi.nlm.nih.gov

論文タイトルは「Dedifferentiated liposarcoma with rhabdomyoblastic differentiation.」

どのような症例報告かアブストラクトからみてみます。

・脱分化型脂肪肉腫(dedifferentiated liposarcoma: DDL)の脱分化領域は通常 MFH や 線維肉腫のような像であり、特異的な分化を欠いている。

・いくつかの報告では、脱分化領域において横紋筋肉腫・平滑筋肉腫・骨肉腫に類似する組織学的な特徴を有することがある。

・3例の横紋筋肉腫様領域をもつDDL症例を、病理学的・遺伝学的に分析して報告する。

・1例は原発、2例は再発例

・3例とも様々な量の rhabdomyoblasts を含んでいた。rhabdomyoblasts は免疫染色でdesmin, myoglobin, muscle actin (HHF-35), myogenin に陽性。

・微細構造の観察(電顕?)では rhabdomyoblasts は豊富な細胞質とその中にフィラメントやZ-bands が見られた。

・リアルタイムPCRで、mdm2とcdk4 の増幅を確認した。高分化脂肪肉腫の部分と rhabdomyoblasts を含む脱分化脂肪肉腫の部分の両方で増幅が確認できた。

・DDLs with rhabdomyosarcomatous components は7例しか報告されていない。そして遺伝子検索は今までなされていない。

・DDLs with rhabdomyosarcomatous area は well-differentiated/dedifferentiated liposarcomas によくみられる遺伝的変化を有している。

 

2本の論文から考える

1つめの論文は後腹膜もしくは internal trunk 発生でしたが、2つめの論文はアブストラクトのみなので発生部位がわかりませんでした。2本とも免疫染色だけでなく定量的PCRで遺伝子の増幅を確認しているところは同じです。

現在では高分化脂肪肉腫と脱分化脂肪肉腫は、共通の遺伝学的性質を有しているため、高分化脂肪肉腫から脱分化が生じると考えられており、同種の肉腫に分類されています。診断名も well-differentiated/dedifferentiated liposarcomas とつけるようになりました。

脱分化後に様々な方向への分化が見られることがあるということは不思議なことではないですし、MDM2やCDK4の増幅が共通してみられるのであれば、もともとは同じものであるという理解ができます。

私は研究者ではありませんが、EMTやMETといった言葉も一般的になりましたし、cancer stem cell の話も一般的になってきたように思います。そこから受ける印象として、「腫瘍細胞の形質が変化することはよくある」「形質の変化・分化は一方通行ではない」のだなと思います。腫瘍の種類にもよるのでしょうが、癌が間葉系の性質に変わったり、分化した腫瘍が逆にstemness を獲得したり、割となんでも起こりえるんですね。

 

自験例を考える

後腹膜には高分化脂肪肉腫の発生頻度が高い、しかも本症例では免疫染色上、3つのマーカーが陽性を示している。

臨床的にも脂肪肉腫である。

などを考えると、横紋筋肉腫様の分化をともなった脱分化脂肪肉腫と考えるのが妥当な気がしました。

MDM2・CKD4の増幅を確認した方がより確実なのでしょうが、そこまではしていません。

病理医としては「免疫染色でmyogeninが染まったから横紋筋肉腫だ」とはならないことに注意しないといけません。

 

直近の論文

2018年の中国語の論文ですが、アブストラクトは英語で読むことができました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

ここでは6例の rhabdomyoblastic differentiation を伴った後腹膜脱分化型脂肪肉腫を報告しています。北京大学国際病院で3年弱の期間で集められたそうですが、これだけの症例があるんですね。すごい症例数だと思います。

PCRはされていませんが、免疫染色はなされていますし、内容も大丈夫そうです。

1例が原発で5例が再発。ここでは詳細は割愛します。

 

後腹膜高分化脂肪肉腫は切除しても再発率が高いです。再発例が多いから横紋筋分化が見つかるのか、横紋筋分化のある症例が再発しやすいのかわかりませんが、再発例を診断する際は脱分化成分の有無は注意してみておく必要があるかもです。

 

それでは。

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